今治市朝倉にある満願寺には、市の天然記念物に指定されている「しぐれ桜」があります。
この桜の幹周りは111cm、樹高は7.0mにも達し、樹齢200年以上の歴史があり、毎年桜の季節になると淡いピンクの美しい花を咲かせ、その優雅な姿は訪れる人々を魅了しています。
元々は石垣の上に根を張る親木(おやぎ)と、石垣の下の若木(わかぎ)の2本が存在していましたが、若木は残念ながら枯れてしまい、今では親木の一本のみとなっています。
「マンガンジザクラ」
当初この桜の佇まいからエドヒガンだろうと考えられていましたが、山本四郎氏(元今治明徳短期大学教授)が詳しく観察したところ、花の付け根部分がエドヒガンほどは膨らんでないことを発見しました。
さらに、メシベの花柱の下には毛が少ないという、ヤマザクラ特有の特徴をもっていることもわかりました。
これによって、エドヒガンとヤマザクラの自然交雑種なのでは?と考えられるようになり、このことを発見した山本四郎氏はこの世にも珍しい桜に敬意を込め、お寺の名前を入れた「マンガンジザクラ」という名前をつけたたえました。
弥山の七不思議と伝説のしぐれ桜
実は満願寺と同寺の「しぐれ桜」には、世界遺産の厳島神社で知られる広島県廿日市市宮島町との深い絆が存在しています。
宮島には、弥山の七不思議という伝説が伝わっており、その中の一説に満願寺のしぐれ桜と同名の「時雨桜(しぐれざくら)」伝説があります。
時雨桜は、不思議な現象を持つ桜として知られています。どんなに晴天の日でも、時雨のように露が落ち、地面が通り雨が過ぎ去ったかのように濡れるこの桜は、江戸時代の『宮島図絵』にも記されています。弥山山頂に一本だけ存在していたこの桜は1970年頃まで見られましたが、その後失われてしまいそのまま月日が経っていきました。
しかし、1996年に厳島神社が世界遺産に登録されたことをきっかけに、流れが変わります。
伝説の復活に向けて、宮島観光協会の元事務局長で環境省のボランティアも務める中道勉氏と、宮島最古の寺院である大聖院の住職、吉田昌弘氏の二人を中心に、時雨桜を復活させるプロジェクトが始動しました
彼らは日本中で時雨桜の後継にふさわしい桜を探し続けました。
そして2007年、ついに満願寺にある同名の「しぐれ桜」との運命的な出会いを果たしました。この桜は、宮島の失われた時雨桜と同じ特性を持つ桜でした。
プロジェクトは一気に進展し、2009年3月2日には、満願寺で接ぎ木された桜の苗木が宮島の大聖院に贈呈される引き渡し式が行われました。
さらに翌3月3日には、宮島の大聖院で植樹式が無事に執り行われました。実はこのときに、満願寺にも親木の株と子木の株が一本ずつ植えられました。
満願寺と宮島の間に深い絆
このようにして、満願寺と宮島の間に深い絆が生まれました。
しぐれ桜は、両地をつなぐ象徴となり、失われた桜の美しさと不思議な現象が再び訪れることを願う人々の希望となったのです。
そして二つのお寺は、しぐれ桜を通じて互いの絆を深め続けており、訪れる人々にその美しさと物語を未来へと伝え続けています。