「海禅寺(かいぜんじ)」は、禅の教えを大切にし、心の平安を求める人々のための場所として、地元の人々に長く親しまれてきたお寺です。創建以来、海禅寺は時代の変化に寄り添いながら、地域の精神的支えとして重要な役割を果たしてきました。寺院としての役割はもちろんのこと、文化的な活動や行事を通じて、地域社会と深いつながりを築いています。
創建の歴史と再興の歩み
海禅寺の創建時期ははっきりとはわかっていませんが、元々は「海會寺(かいえじ)」として知られていました。この寺院は、戦国時代の激動の中で荒廃し、長い間修復されることがありませんでした。しかし、江戸時代に入り、寛永十年(1633年)に天嶺玄嶝(てんれい げんとう)という僧侶が開山住職として迎えられ、再び息を吹き返します。この時、今治藩主であった藤堂高吉公から寺領の免許状を拝領し、寺名を「海禅寺」と改めました。
この再興により、海禅寺は地域の精神的な支柱としての役割を果たすようになり、特に藩主や家老、士族たちの菩提寺として機能しました。寺の境内には、彼らの墓所が数多くあり、今でも地元の人々の祈りの場となっています。
ご本尊と宗派「臨済宗妙心寺派の禅寺」
海禅寺のご本尊はお釈迦様(釈迦如来)です。釈迦如来は仏教の開祖であり、悟りを開いた存在として、仏教徒にとって最も重要な仏の一つです。海禅寺は、臨済宗妙心寺派という禅宗の一派に属しており、京都市にある「正法山妙心寺(しょうぼうざん みょうしんじ)」が本山となっています。臨済宗は、禅の教えに基づき、坐禅や修行を通じて心の平安や悟りを目指す宗派であり、海禅寺もその教えを大切にしています。
観音堂と十一面観音菩薩
海禅寺には、釈迦如来のほかに観音様も祀られています。観音様を祀る観音堂は、寛保年間(1741年~1744年)に八世和尚によって建立されました。この観音堂は、府中西国三十三ヶ所霊場の第一番札所として指定され、地元や遠方からの巡礼者にとって重要な拠点となりました。
観音堂には、十一面観世音菩薩が安置されていましたが、残念ながら第二次世界大戦中の空襲によって堂は焼失してしまいました。しかし、観音様は奇跡的に救出され、現在では本堂に安置されています。観音様は、慈悲の象徴として多くの信仰を集め、今日でも多くの人々が訪れ、心の救いを求めています。
東吟(とうぎん)さんの信仰と逸話
海禅寺では、「東吟さん」と呼ばれる特別な人物も祀られています。東吟さんの本名は西月東吟(さいげつ とうぎん)で、江戸時代中期に実在した僧侶です。東吟さんは、当時の今治で「三僧」として知られるほど博学で、僧侶としても非常に尊敬されていました。
しかし、その一方で、東吟さんは非常にユニークで風変わりな行動を取ることでも知られていました。無欲自然のままに生活し、托鉢を行いながら村々を回っていた東吟さんは、自身の糧と貧しい人々に施す分以外のものを決して受け取らないという徹底した姿勢を貫いていました。東吟さんの死後、「今はできないが、自分が死んだ後に病を癒そう」と言い残した言葉通り、彼の死後に病が癒えたという逸話も残されています。このような逸話から、東吟さんは「奇跡をもたらす僧侶」として広く信仰されました。
東吟さんを祀る東吟堂は、毎年8月26日に盛大なお祭りが開かれ、今治の夏の終わりを告げる重要な行事となっていました。東吟堂自体は老朽化により取り壊されましたが、現在では本堂に東吟さんの木像が安置されており、施餓鬼法要と共にお祭りが今でも続けられています。
「薬師寺寛邦キッサコ」
現代において、海禅寺は地域との深いつながりを保ちながら、伝統を守り続けています。海禅寺の副住職「薬師寺寛邦(やくしじ かんぽう)」さんは、お寺での活動に加えて、現代の人々に仏教の教えを伝えるために、音楽を使った独自の取り組みを行っています。
薬師寺寛邦さんが立ち上げた「薬師寺寛邦キッサコ」は、仏教の教えを音楽で表現するプロジェクトです。その中でも、代表的な楽曲が「般若心経 cho ver.」です。般若心経は、仏教でとても大切なお経ですが、薬師寺さんはこれに美しいコーラスを加えて、現代風にアレンジしました。
この「般若心経 cho ver.」は、多くの人々に共感を呼び、YouTubeでは200万回以上再生されています。また、台湾ではニュース番組で取り上げられ、160万回再生されました。さらに、中国のSNSでは2,000万回も再生され、大きな話題になりました。フジテレビの「めざましテレビ」などでも紹介され、薬師寺寛邦さんの活動は広く知られるようになりました。
こうした反響を受けて、2018年12月には中国本土や台湾でワンマンライブツアーが開催されました。このツアーは大成功を収め、6カ所での公演には多くのファンが集まりました。それ以降も、薬師寺寛邦さんは国内外でライブを続け、仏教の教えを音楽を通して広く伝えています。
薬師寺寛邦さんの活動は、仏教と音楽を組み合わせ、仏教の大切な教えを現代の人々に伝える新しい方法です。音楽を通じて心の安らぎや癒しを提供し、多くの人々に感動を与え続けています。