2025年3月23日(日曜)15時53分、愛媛県今治市長沢で大規模な林野火災が発生しました。この火災は約一週間に渡って燃え続け、最終的には今治市で423ヘクタール、西条市で19ヘクタールの地域を焼失しました。
この火災は東京都港区の約5分の1、東京ドーム約90個分に相当する広さで、平成以降の愛媛県内で発生した中で最も広範囲のものとなりました。
2025年3月31日午前11時、今治市は災害対策本部会議を開き、鎮圧宣言を発表しました。この宣言により火災は一旦終結となりましたが、黒く焦げた山々や田畑、建物がその恐怖を今も伝えています。
被災地となった長沢は、まさに私の地元であり、自分自身が恐怖と混乱を体験することになりました。
今回の連続した特集記事では、私が直接体験した出来事を振り返ります。
あくまでその時の状況や感じたことを、体験談として主観的に書いていきますので、疑問に思う方やご指摘のある方もいるかもしれません。
より詳しい情報については、他のニュースサイトなどを参照してください。
願わくば、この記事で山林火災の恐ろしさと教訓が伝わりますように。
<2025年3月23日>突然のサイレンと連続した火災
2025年3月23日(日曜日)、この日は昼間に20度を超える春にふさわしい温かい一日で、ゆったりとした時間を過ごしていました。
しかし、16時20分頃に消防のサイレンが鳴り響きました。
富田の方に外出していた私は、どこで火事が起きているのか確認するために、今治市消防本部の火災案内に電話をかけました。
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なかなか繋がらず…約10分ほど経ってようやく通じました。
通話がつながると、火災が発生している場所が地元であること、そしてそれが山林火災であることがわかりました。
その時、脳裏によぎったのは放火でした。
実は、昨日の2025年3月23日(土曜)の同じ時間帯にも地元で火事があったからです。
その時は倉庫が全焼しました。
しかし、火災原因については、バッテリーの充電中に突然大きな音がして火がついたと聞いていたので、少なくとも放火ではないとは思いましたが、可能性の一つとしての不安は残りました。
2008年の笠松山の山火事を思い出す
さらに場所が山林と聞いて、2008年8月24日の笠松山の山火事を思い出しました。
この時は、笠松山一帯の山林約107ヘクタールを焼失し、8月29日にようやく鎮火しました。
そしてこの火災の原因は、タバコの不始末とされています。
山林火災はそのほとんどが人為的な要因によるものなので、タバコの不始末か野焼きを考えました。
しかし、真相は不明……とにかく帰らないと。
国道196号線を使って帰宅する途中、遠くからでも見える煙が大きく立ち上っているのが分かりました。
近づくにつれて煙はますます大きくなり、想像していた以上に深刻な状況だと理解しました。
「これはもしかしたら大変なことになる」
火災が起きている正確な場所、距離感がわからなかった
午後4時30分に自宅につきました。
この場所からみると、すぐ裏が燃えているように見えました。
山々がそれぞれ小高く連なっており、さらに煙によってどの山が燃えているのかわからなかったのです。
そこで、歩いて200mほど離れることいしました。
外に出て全体が見えるところまで歩いていくと、どの山が燃えてるのがわかり、同時にここからはまだ結構距離があることもわかりました。
ただし、この距離でも炎は煙にかこまれているため、角度によっては見えなかったこともありました。
この、距離によって見え方がかわるという状況は、これから数日間にかけて続いていくことになります。
地元民の情報交換によって火災現場を把握
地元の人々も外に出てきていたため、皆で情報交換をしました。
それでも正確なことはわかりません。
しばらく経って、自転車で様子を見に行っていた地元の人が「神社の裏手、高速道路を作っている場所の裏の方で火が出ている」と教えてくれました。
これによって土地勘のある自分たちは、ある程度燃えている場所がわかりました。
それが以下の場所です。
原因はタバコの不始末の可能性
場所は大体わかった…。でもこの火災の原因は??
ここで考えられたのが「タバコの不始末」「野焼き」でした。
地元の人たちの話では、野焼きは行われていなかったそうです。仮に野焼きをしていたら誰がやっているか私たちの地域では100%わかるので野焼きはありえません。
後から現場にいった友人から聞きましたが、場所的にも野焼きをするようなところではなく、野焼きの後もなかったそうです。
そうすると、残るのが「タバコの不始末」となります。
この場所は外部の山菜を採る人や、奥の溜池にバス釣りの人がたまにきていると聞いていた場所だったので、その人たちがタバコをポイ捨てしたのでは?みたいな話をしてました。
一方で、これだけ燃えれば正確なことはわからないのでは?とも話をしていました。
フェイク、デマ、憶測、陰謀論が拡散
この頃、SNSでは「スマートシティ計画のために故意に火をつけた」「ソーラーパネルを設置するため」「DS(ディープステート)による攻撃」「北朝鮮の関与」「レーザーによる攻撃」といった根拠のない情報が拡散されていました。
しかし、これらの話は地元民や周辺地域に住む人々にとっては明らかに非現実的。
ていうか嘘すぎて、誰も話題にすらしていません。
特に、この地域周辺の山は、個人個人が狭い区画で小さな私有地が点在しており、それらを一つずつ買収した後で太陽光パネルを設置し、さらに必要な電柱を建てるための土地を確保するなど、計画自体が非常に無謀だと感じています。
実際にソーラーパネルを設置しようとする動きはありました。しかし、それは火災発生地から離れた別の山に作られることになり、大きな反対運動がありました。
その結果、かなり着工が遅れて大きく規模も縮小しています。
もし私が業者であれば、コスト面から考えても旨みが低く、2度とこの場所にソーラーを設置しようとは思わないでしょう。
火の燃え広がり方についての説明は省略しますが、根拠のない情報が流布されていることについては言及します。私たちはその場で直接目撃しており、火がどのように広がっていったかを知っています。
陰謀論やデマは全て嘘です。現場にいた私から見ると、被災地を不謹慎にも遊びの材料にしているようにさえ感じられました。
また、詳しい説明はこれらの特集記事を見れば把握できることですが、例えば特定の誰かの家、権力者、上級国民だけを優遇的に守っていたということも絶対にありえません。
現場で懸命に消火活動を行っていた、消防の方々に対しても非常に失礼です。
それでも「消防のトップ、指揮系統をする人が忖度をして指示していたんだ」と考える人もいるかしれませんが、予測が困難な火の広がりを見ていた私からすると、仮にそんなことをしてたら、今より遥かに甚大な被害が起きていたことは明白です。
仮に他の国、または他の場合にそれらのいわゆる忖度あったのだとしても、今回の山林火災に限っては絶対になかったと断言できます。
住宅など22棟が被害を受けてしまいましたが、消防の方々は全ての建物、特に人が生活などをしている建物だけ絶対に守るという意識の中で、懸命に消火活動をおこなってくださってました。
野次馬の車問題
さて、再び時系列を戻して進めていきます。
17時前には、山林火災をみようとたくさんの野次馬が、車で乗り付けて道路に停車していました。
悪質な野次馬の人々の中には、燃えてるなあ!!みたいに笑いながら、車でかなりのスピードで自分たちの間をすり抜けて車を飛ばし、あろうことか電子タバコの残骸を車窓からポイ捨てして走り去る者もいました。
人間なので、大きな出来事があると見てみたいという気持ちはわかります。
でも流石に私もイラっとする出来事がありました。
火災現場に笑いながらやって来て、あろうことか目の前でタバコをポイ捨てされたのです。
電子タバコで火はまったくついてなかったからアレでしたが、こういうの人たちが軽はずみな行動が、全国の山林火災を引き起こしているんじゃないか?と思いました。
よく言われることですが、「犯人は現場に戻る」という話があります。
なので自分の心の中では「ひょっとするとこの人たちが犯人か?」と少し勘繰りました。
経験がないことによる考え方の甘さ
野次馬でこられた方々の中には、後で私たちと同じような危険な状況下に置かれ、急いで避難した人もいたと聞いています。
「山林火災なので住宅は燃えないだろう」
「自分のところまではこないだろう」
「大丈夫だろう」
こんな気持ちを持っていた人もいたのではないでしょうか?
これまで「地震」「津波」「洪水」「豪雨」「土砂崩れ」「台風」については、それなりに勉強していましたが、山林火災、特に2025年に入って多発している大規模な山林火災については、自分自身知識が不足していたと言わざるを得ません。
大規模な山林火災は海の向こうの外国で起きていること……まさか自分が経験することになるとは…。
山林火災を甘く見ていたことを大いに反省しています。
現場に住む友人と連絡
同じ頃、まさに火災現場の住んでいる友人と連絡をとりました。その友人は既に状況を把握しており、母親がいるその家に向かっているという話でした。
この頃、その友人宅方面は煙がどんどん濃くなり、視界はかなり悪くなっていました。
高速道路の封鎖
17時10分頃、今度は別の友人から突然の電話がありました。
西条方面から帰宅中で、今治湯ノ浦ICへの道が封鎖されたため、196号線から帰っているということでした。
この段階で、やはり湯之浦道の駅〜世田山(世田薬師)あたりが燃えてる?と考えました。
しかし、状況はわからず、あくまで推測でしかありませんでした。
神社(須賀神社・長沢)が延焼の可能性
この時間になると状況はさらに悪化。
現場に近い友人からの連絡で、火災現場近くでは野次馬の車が多く、場所によっては車を出せない状態になっているとのことでした。
自分も大きな出来事があると、目視したいという気持ちは理解できます。しかし車で乗り付けて現場に好き勝手に停車するのは、迷惑以外の何者でもありません。
はっきり言って邪魔です。
この時、ヘルメットを被った報道の方々も来てましたが、残念ながらこの人々も邪魔でした。
急いで情報を伝える仕事は必要でそれは助かります。
しかし……せめて車は離れた場所に停車して歩いてきてくれ…。と言う感じです。
また、建設中の高速道路の裏手付近。一つ目の防衛ラインを超えるところまで火の手が迫っており、「須賀神社・長沢」がある小さな丘の部分にも延焼の可能性もあるという話も聞きました。
消火活動の限界
この日、消防本部からは13隊50人、消防団からは15台100人が火災現場へと駆けつけ、一丸となって消火活動をおこなってくださいました。
愛媛県から派遣された消防防災ヘリコプター1機は「三嶋神社・旦」や特別養護老人ホーム唐子荘の近くにある高麗池から水を汲み上げ、ピンポイントでの水撒きを行いました。
37回、合計14,800リットルの水を撒きました。
ヘリでの消火は特に効果的で、水がかかった場所は火が消えたようにも見えました。
しかし、ヘリコプターが日没後に活動できないため、夜になると消えたと思った場所から、再び火の手が上がることが幾度となく発生しました。
ヘリではないと火元には届かないため、山へ山へと燃え広がるのは、実際の所どうしようもない状況だったのです。なので。
消防の方々は建物、特に居住している住宅を絶対に死守するという動き方をしていたような気がします。
これだけの広範囲が火災になっていると、常駐することができず、本当に危険な場所につねに移動しながらの消火になり、鳴り止まない119の中でそれらを判断していったと思います。
このような懸命な消防活動の中にあっても、残念ながらいくつかの建物は全焼してしまいました。
しかし、死者は出ていません。
ちろん被害に遭われた方はたまったものではなく、軽はずみなことはいえませんが、これほどの大規模な火災の中で被害と考えるとかなり抑えることができたように思えます。
私も昔、火災によって家が全焼して全てを失ったことがあります。
なので…あえて言わせてもらいますが、生きてさえいればなんとかなります。
1つ目の防衛ライン「工事中の高速道路」
さて、このように火を遅らせて、雨を待つというような戦い方になっていたわけですが、火の広がりを食い止める緩衝地帯もいくつか存在していました。
それの一つが工事中の高速道路です。
火災の現場は高速道路の工事によってその近辺は燃えるものがなく、緩衝地帯のような役割を果たしていたため、そこに陣取り地上から消火活動を行うことで、桜井地区(今治方面)への拡大を食い止めることができるではないか?と話をしていました。
前述の通り、ヘリではないと火元には届かないため、地上から拡大を防ぐための消火活動ができ、なおかつ超えてしまうと今治方面へと拡大してしまう防衛ラインというものが自分の頭の中には出来上がりました。
その1つ目の防衛ライン、それが工事中の高速道路だったのです。
しかし、そんな甘い考えは現実には通用しませんでした。
風空から広範囲に降り注ぐ降ってくる「煤(すす)・灰」は、内側で燃焼し続ける炭のようなもので、強風も吹いていたこともあり、いとも簡単に超えてしまうことになりました。
2つ目の防衛ライン「高速道路のトンネル」
さて、防衛ラインの話に戻ります。
この工事中の高速道路は山林がない緩衝地帯ではあったものの、抜け道がありました。
それがトンネル地点です。トンネルの上は普通に山林が存在し、そこをこえるなら長沢の住宅部分(桜井方面)、緑ヶ丘団地(朝倉方面)に迫る可能性がありました。
ここが自分が考えた2つ目の防衛ラインです。
しかし、この段階ではまだ距離があり、火の延焼速度も比較的緩やかではあったので、すぐにここには火が及ぶことはないだろうと考えられていました。
一方で、孫兵衛作や朝倉の笠松山、世田薬師側にはこれらの緩衝地帯がないため、消火はヘリ頼みのため、そのまま奥へと進行する恐れがありました。
3つ目の防衛ライン「県道162号線」
さらに3つ目の防衛ラインとして考えられるのが、緑ヶ丘団地を越えた石打峠(県道162号線)です。もしここを超えると左側の山に「満願寺(朝倉方面)」や高麗池(桜井方面)へと燃え広がってしまいます。
これについてもすぐに飛び越えてしまい、実際に確認したところ、高麗池のすぐそばまで燃え広がっていました。
4つ目の防衛ライン「国道196号線」
4つ目の防衛ライン。
それが、長沢から今治市方面に山を抜ける国道196号線でした。その先はの山は法華寺、そして伊予桜井駅から広がる住宅が密集したエリアが広がっています。
長沢ように一軒一軒の住宅との距離がないため、もしここを超えるようならば、一気にパニックになり、桜井のほとんどが消失し、死者もででしまうのではないか…?と考えました。
なので、自分の中でここは絶対に超えては行けない最終ラインでした。
これが自分の頭の中にあった4つの防衛ラインです。
ただし、この時点ではまだ現場から距離があり、風の影響もあって西条方面へと進んでいため、この最悪の想定にはならないのではないか?と思ってました。
しかし、実際には強風による飛び火は凄まじく、想定を遥かに超える速度で燃え広がりっていくことになります。
夜になるも状況がわからない
防衛ラインの話から話は戻り、午後6時を過ぎた頃。
情報もほとんどなく、周辺が暗くなっていく中で、距離感が掴めないのは危険だと判断しました。そこで、196号線の湯之浦側の歩道から、自転車で火災の様子を見に行きました。
湯之浦ハイツのある高台に到着すると、自分の想像を超える光景が広がっていました。
「道の駅 今治湯ノ浦温泉」裏手には火が迫り、山から火柱が上がり、その前の国道196号線は警察が交通誘導をおこなっていました。
さらに、当然のことながら高速道路も危険ということがわかりま、SNSを通じて、高速道路に迫っている火の様子が次々と投稿されているのを目にしました。
このような状況から、孫兵衛作側の1つ目の防衛ラインは超えていたことがわかりました。ただし、ここでは桜井方面への広がりということを
国道196号線が通行止め
危なすぎる…。
午後7時40分頃になると、さすがに危険すぎると判断され、196号線は湯之浦の道の駅から完全に通行止めとなり、車がUターンを始めました。
その通行止め情報はすぐには伝わらず、また認知もされていなかったためか、1時間〜2時間ほどたっても、通行止めの場所まで進み、Uターンするトラックが見られました。
タオル美術館側の道路(国道156号線)だけが唯一の今治〜西条ルートになったため、しばらくは渋滞となっていました。
危険な電車
国道196号線が通行止めになった頃、電車はまだ走っていました。少なくとも20時にはまだ走っていたと思います。
線路は道の駅の裏手にあるため、道路よりも遥かに危険です。
その理由は明確ではありませんが、どう考えても危険だったので伝達の遅れだと思います。
避難指示が発令
午後8時40分には長沢地区に避難指示が出て、孫兵衛作は自主的に避難をする人がいました。
とはいえ長沢地区は縦長の3kmほどあるエリア、火も孫兵衛作方向に進んでいたため、避難をする人はあまりいなかったと思います。
この時、避難指示と共に、避難場所となった桜井公民館ですが。
通常、災害時には地元の学校が避難所として開放されることが多いですが、災害時に桜井小学校は避難場所としては使わせてくれないと噂で聞いてました。
理由についてははっきりと断言することはできないので差し控えます。
結果論ではありますが、その後に火が学校に迫る可能性もあったので、避難所となっていたとしたら危なかったと思います。
状況が不明の混乱状態
初日から始まった交通情報の伝達による混乱、飛び火の恐怖は、ここから数日間続くことになります。
山林火災はまったく予測ができず、鎮火したと思っていても何度も復活したため、道路が封鎖と解除を繰り返しました。
これは道路状況を直接目視できるような場所にいないと、中々把握することはできませんでした。
そして、山林火事に関しては燃え上がった瞬間、今に燃え上がりそうな煙も目視じゃないとわかりません。
一方で、火がどの方向から迫ってきてるのか、その規模に関しては距離を取らないとわかりませんでした。
そのため、状況確認はたまに報道される空からのライブカメラと、SNS頼みになっていました。特に空からの映像は非常に貴重な情報源だったので、燃料の問題もありますがなるべく長く長時間映してほしかったです。
しかし、そんな上空からの映像であっても、煙と黄砂によって見えづらく、はっきりとした火災の状況がわかりませんでした。
花粉+黄砂+煙
余談ですが、火災の拡大により、周囲の地域が濃密な煙で包まれ、目はどうしようもないにしろ、マスクをしないとかなりきつい状態でした。
さらに、この時期に黄砂と花粉症のシーズンが重なっていたため、鼻と目の症状が一段とひどくなりました。
でも、はっきり言ってそれどころじゃありません。
地元が燃えている。