毎年春になると、無量寺の境内は優雅で美しい光景に包まれていました。この光景を作り出していたのが、高さ10.5メートル、幹の周囲1.72メートル、北から南まで15メートルにも広がる枝を持つシダレザクラ(エドヒガンの変異)です。
過去から未来へ繋がれた桜
無量寺のしだれ桜の起源は1920年頃にさかのぼります。
当時の無量寺の三代目住職(日月上人)が、京都市の大名寺から桜の苗木を譲り受けたことから始まりました。それから約130年間、地域に春の到来を告げる存在として、敬意と畏敬の念を与えてきました。
春に開催される桜祭りでは、地元住民だけではなく遠方からもこの桜を見ようと多くの訪問者で賑わい、地域の活性化に大きく貢献していました。
命の儚さ
しかし、命あるものに終わりは必ず訪れます。
2000年頃から病気(木材腐朽菌)に侵されてしまい、枯れ枝が落下するなどの危険性が増していきました。しばらくは支柱で支えるなどの対策を行なっていましたが、2023年の春には桜の開花が全盛期の10〜20%にまで減少してしまいました。
訪問者の安全と建物の保存を考慮する中で、無量寺はどうすればいいか悩み続けました。
そして、最終的にこの桜を伐採するという苦渋の決断を下すことになったのです。この決定は、桜を愛する多くの人々、そして地域全体に深い衝撃と悲しみを与えました。
2024年1月14日午前11時30分、多くの人々が見守る中でこの桜は伐採されました。この瞬間は、無量寺の桜が繋いできた一つの時代の終わりを告げるものになりました。
新たな希望と成長
こうして、かつて境内を彩った美しシダレザクラは、残念ながらその姿を消してしまいました。しかし、この物語はここで終わりではありません。実は新たに醍醐寺から譲り受けた桜、接ぎ木で育てられた「大しだれ桜」など、7本の後継の桜が境内に植えられ、さらに未来にむけた物語が始まっています。
また、伐採されたとはいえ、同年春には花を咲かせ、生命の力強さを感じるものになりました。桜の美しさ、そして命のバトンが続いていく姿を、私たちはこれからも大切に見守っています。